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「VHF 帯電波観測によるスポラディック E のモニタリング観測 - アクティブデータアーカイブ」でEsの正体を探る(2021年6月19日)

今シーズンのEs伝搬状況は自分がワッチしている範囲に限っての印象としては低調で、6月上旬まではあまり大きなオープンに遭遇することはなかった。
しかし、6月13日からは5日連続で比較的強力で長時間のEs伝搬を観測することが出来た。

スポラディックEsは春から夏ごろにかけて、主に昼間に上空約100km付近に局地的に突発的(スポラディック)に発生する特殊な電離層。
Eスポの電子密度が極度に高い場合は、F層でも反射できないVHF(Very High Frequency)帯の電波をも反射するという特殊な性質がある。(ウィキペディアより引用)
また、なぜか日本の上空付近でのEs発生率が高いという観測記録もある。
Esに関してはまだまだ謎が多い。
ISSから見た地球大気画像を見ると薄っすらと層がかかった部分を垣間見れる。

Iss040e062704_largeaa
(出典:NASA Image and Video Library )

ここが上空100Km位としたらこの層を構成している物質が何らかのEs層成因に関与しているのかもしれない。

自分は国内民放FM開局ラッシュが始まる1987年頃から自宅の屋根にFMアンテナを建てて遠距離受信を嗜み始め、毎年Es伝搬記録も付け始めた。
HPにも「年度別Es伝播受信記録」「1987年~2003年における17年間のEs伝播データ自己解析」を載せてEs伝搬に関する自己流の考察レポートを記したりした。
また、以前所属していた「関東DXサークル」機関誌「CALL SIGN」にもEs関連レポートを投稿。
一例としての1992年7月号掲載の「Es一考察『風と太陽と流星』」のJPG画像をUPしておく(当時の原稿は手書きしかなく、改めてテキスト化する手間省略のため機関紙に載ったページをそのまま転写)。
Es199204aaa Es199204baa

(出典:「関東DXサークル」機関誌「CALL SIGN」1992年7月号)

近年はEs伝搬考察のアクティビティーが低くなってしまい、久しくレポートも記していなかったが今回は直近の受信記録や新しいEs研究サイトからの引用等を活用し、久々にEs伝搬一考察忘備録として書き留めておく。

〇Es層の発生傾向
「年度別Es伝播受信記録」「1987年~2003年における17年間のEs伝播データ自己解析」 にも載せているが一般に言われているようにお昼前の10~12時、そして夕方から夜に掛けての16~18時の時間帯にピークがある。
これはEsの発生する高度100Kmの風の動きや磁力線の日変化に連動していると思われる。
また、大凡シーズン中に三つの大きなピークがあって、これは太陽の自転周期にシンクロしている可能性も高い。
Es層は夏至中心にピークがあるので、太陽の影響を大きく受けていると思われる。
但し、黒点の11年サイクルとの相関関係はあまりはっきりしない。
経験則からEs伝搬にも様々なパターンがあり、あくまで個人的な観察記録ではあるが以下のカテゴリーに分類している。

●南方(強力)型
長時間に渡って沖縄、石垣島方面(距離1000Km~2000Km)がオープン。ステレオで長時間安定した受信が可能。シーズン中には最も多く観測される。シグナルが強い場合は「強力型」と呼称する。また、九州、四国、山陰、山陽地方が伴って入感する場合もこのタイプに含める場合あり。

●北上(強力)型
朝のうち沖縄地方が入り、F/outした後30分~2時間位で九州南部、北部、山陰、山陽、四国地方と入感し、韓国へ至る。時として北海道まで至る時がある。シグナルが強い場合は「強力型」と呼称する。

●南下型
朝のうち韓国、北九州が入り、F/outした後、沖縄地方が入感してくる。

●北方(強力)型
北海道、及び極東ロシア、華北方面が長時間入感してくる。頻度は南方に比べ低い。シグナルが強い場合は「強力型」と呼称する。

●南北同時型
距離1000km以上の距離で南北同時に開ける。頻度低い。

●全面強力型(近距離Es)
距離1000kmより近い局が全方面から一度に強力に入感。頻度低い。
(JH1EAF「年度別Es伝播受信記録」から引用)

また昼間に強力なEsが発生した際、夜遅くまで安定的な伝搬が続く場合がある。
ウェキペディアによると、これはE層で「FAI(Field-aligned Irregularities)」と呼ばれる電離層構造が要因と考えられる。
FAIとは、Es層内プラズマ中の不安定な構造が地磁気の磁力線に沿った鉛直方向に対して電子密度が高くなる濃淡構造をいう。FAIは磁力線に直行の方向から入射する電波を強く後方散乱し、夏の夜半前にしばしば現れるといわれている。


〇Esの成因
〇「キングソロモンの法則」説
Esの成因については昔から様々な研究が成されている。
かつてはアマチュア無線家が「キングソロモンの法則」(発案者JA1KS氏のサフィックスを捩った名称)として「日本列島を温暖前線が縦断した時、かつ雲が垂れ込めていると発生しやすい」という研究が有名。
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(出典:八重洲無線発行ハムジャーナルNO.17/昭和51年12月20日発行)
(参照サイト/https://blog.goo.ne.jp/49contest/e/d97989f6b0ac6c14f98e0f6c0cffb97a)
但しこれはあくまで上空10km以下の対流圏での現象で、上空遥か100kmに発生するEsとの直接的な因果関係はなさそうと考えられた。
Esのピークは梅雨時であるから梅雨前線が日本列島を縦断している日は珍しくはない。
ただ、自分の経験則で言うと、雷雨時に強力なEs伝搬に遭遇することがよくあるので対流圏での気象現象がEs層発生に全く関与していないと言い切るのは疑問とも思っていた。
実際、今回の6月13~17日のEs伝搬オープンも連日雷鳴が轟いていた。
これに関しては後述する「大気重力波」で説明がつくかもしれない。

〇流星成因説
VHF波すら反射するEs層であるからかなり高密度の電気を帯びた金属イオンが上空100Kmに滞留しなければならぬ。
ではその金属イオンがどこから供給されているのかと考えると恐らく流星ではなかろうかと。
流星もちょうどEs層と同じ上空100Km辺りで大気との摩擦で蒸発するというから可能性は高い。
「Es一考察『風と太陽と流星』」でも記したがEsシーズンにはいくつかの流星群があり、時差を置いて強いEsが観測されることもあった。
ただ、なぜこの夏至を中心にしたシーズンにEsが集中するのかについては、単に流星だけでは説明が付かない。

〇「ウインドシアー理論」説
最近の研究では「ウインドシアー理論」がEs層成因の最有力説。
これは上空100Km付近の東西風の速度が高さによって変化する時、電気を帯びたイオンが特定の高度に集積されるという説。
前述した流星が齎した金属イオンがこのシーズン特有の高度の違う風の向きや速さによって集積し、太陽の影響で何らかの作用で活性化してVHF波を反射するまでに至るのではなかろうかと。
ただ、ウインドシアー理論だけでは説明がつかないEs層もあると聞くので万時解決という訳でもなさそうだ。

〇「大気重力波」説
大気重力波にも影響されている説もある。
大気重力波とは、比較的短いスケールの大気振動を指すそうだ。
「大気のてっぺん50のなぜ」サイトの解説によると積乱雲が発達する時、その上空の大気は持ち上げられる。その大気は圧力が下がって膨張し、気温が下がり、周りの大気より重くなって落ちていく。落ちた大気は周りの圧力が上がるため縮んで温度が下がって軽くなり、また上昇するという振動を繰り返す。
簡単に起こる振動なので高層大気内にはこの振動で満ちているという。
積乱雲発達などの対流圏で起きる大気重力波は更に高い高度まで伝搬し、空気が薄い中間圏ではその影響力は無視出来ない程のポテンシャルになる。
上空90km位で大気重力波は壊れて熱や力を放出。その時、中間圏の風系を変えてしまう程の影響を与える。
参考文献/「大気のてっぺん50のなぜ」https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/50naze/taiki/10.html)
ちょうどその辺りはEs層が発生する高度。
これが上空100Kmあたりに金属イオンを集積させる原因になっているとしたら、雷雨時にEsが発生する説も強ち的外れではなさそうだ。
「キングソロモンの法則」も梅雨時の集中豪雨の際、梅雨前線に発達する積乱雲によって発生した大気重力波が遥か上空100kmの超高層大気層に影響し、Es層生成に寄与しているとしたら、これもEs発生要因の目安として間違っているとは言えまい。

恐らく、どの説も様々な多角的視点から見た相違があるだけでEs層成因としては間違っていないのだろう。
成因は朧げに分かったとして、では果たしてEsは実際にどのようなカタチでどんな動きをするのだろう。

〇Esの発生とその正体を知る
15年位前まではアナログ地上波テレビLOWチャンネルの異常伝搬テロップをEs発生の目安にしてきたが、今日では、NICT(国立研究開発法人 情報通信研究機構)のionospheric-signalサイトが便利。
日本の4か所の観測地点から得られたデータより電離層概況をリアルタイムで知ることが出来る。
見かけ高度120km以下で臨界周波数8MHzを超える強いスポラディックE層が発生するとその地域が赤く記されて明瞭だ。
しかし、あくまで「点」としてのEsデータであり、高い数値が示されていても実際はEs伝搬が観測されなかったり、その逆もあった。
また2次元的にEs層がどんな状況で生成されているかは判らない。

〇Es層を2次元視覚化する「VHF 帯電波観測によるスポラディック E のモニタリング観測 - アクティブデータアーカイブ」
ところで先日、ネットでEs関連記事を検索していると興味深いサイトを見つけた。
それが「VHF 帯電波観測によるスポラディック E のモニタリング観測 - アクティブデータアーカイブ」
これは電気通信大学,電子航法研究所,情報通信研究機構の 3 機関の共同で実施されているEs観測プロジェクト。
サイトの概要を要約すると「FM放送帯や航空航法無線帯におけるEs異常伝搬を観測の目的とし、日本国内6か所(サロベツ、大洗、菅平、調布、呉、沖縄恩納)において2019年より航空航法用VHF通信(VORなど)を定常観測し、準リアルタイムにてデータを表示するシステムを構築」しているとのこと。
そしてGPS受信機から取得された電離圏全指数(GPS-TEC)から上空100KmのEs層を可視化しているらしい。
詳細は(http://gwave.cei.uec.ac.jp/~vor/contents/roti.pdf)
どういう仕組みなのかは難しくて解らないが、要するにこれまでは推測するしかなかったEs層の現在位置や分布場所、形状、移動方向が2次元映像として手に取るように見ることが出来るということ。
これは実に画期的なサイトだ。

トップページにあるスペクトル画像の特定の時刻をクリックすると,その時間を含む 1 時間分の Es層2次元分布データが見られ、更に1 日分の ムービーもダウンロード可能。
下の図は2021年6月17日の1200JST台のEs層画像。5分毎ごとの2次元画像になって表示される。
暖色系ほど強いEs層の存在を表記しており、直感的にEsをイメージすることが可能。

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(出典:VHF 帯電波観測によるスポラディック E のモニタリング観測 - アクティブデータアーカイブhttp://gwave.cei.uec.ac.jp/cgi-bin/vor/vhf_jpn.cgi)


またNICTの日本の4か所の観測地点から得られた臨界周波数データもシンプルな表でまとめられて、一日のEs発生状況を直感的に見ることが出来る(稚内W、国分寺K、山川Y、沖縄O)。
20210613_foesaa
(出典:VHF 帯電波観測によるスポラディック E のモニタリング観測 - アクティブデータアーカイブhttp://gwave.cei.uec.ac.jp/cgi-bin/vor/vhf_jpn.cgi)

これまでは想像するしかなかったEs層の正体がいよいよ準リアルタイムで見ることが出来る時代となった。
今後はこのデータも活用し、自分が受信したEs伝搬状況と照らし合わせてアマチュアならではの考察をしていきたい。

(GPS-TEC ROTIデータ出典:https://kaken.nii.ac.jp(KAKEN:科学研究費助成事業データベース/VHF 帯電波観測によるスポラディック E のモニタリング観測 - アクティブデータアーカイブhttp://gwave.cei.uec.ac.jp/cgi-bin/vor/vhf_jpn.cgi)

(引用は出典元の科学研究助成事業サイトの利用規定にある「文部科学省ウェブサイト利用規約)【https://www.mext.go.jp/b_menu/1351168.htm】に準拠)

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