国土地理院5メートルメッシュ標高データとKASHIMIR 3Dで移動運用地を探す
先日、『武蔵野と水辺』というサイトで興味深い画像を見つけた。
KASHIMIR 3Dという高機能地形アプリで作られた関東平野の地形図。
さまざまな地形データを基に立体表示したりその断面図や俯瞰図などを作成出来るというフリーウェア。
よく無線サイトでも見通し距離図解で利用されているのを目にする。
この地形図は国土地理院の5メートルメッシュ標高データを元にKASHMIR 3Dによって立体視覚化されたもの。現在のところ最も精細な標高データらしい。
そこで自分もKASHIMIR 3Dの「スーパー地形セット」を試しにダウンロードし、同様の武蔵野地形図を保存してみた。
まず全体像。
これを見て直感的に浮かんだのは多摩川の流れた遍歴である。
『武蔵野と水辺』によると、かつて多摩川は、現在のように南東に下っていたのではなく、北東方向に流れていたのだという。
今の不老川、入間川辺り。そして荒川と合流していたと。
地形図をよく見ると、確かにその辺りに大河が流れた痕跡が見受けられる。
更には柳瀬川、黒目川辺りにも同じような痕跡が。
青梅辺りを要とした巨大な扇状地を形造ったのが多摩川であると。
昔の多摩川は武蔵野の地を何度も大氾濫させて流れを変え、東京湾に注ぎ込んでいた。
ある意味、武蔵野はつい数世紀前までこの多摩川による氾濫平原だった。
「武蔵野はかつてはススキの野」と言われたのも頷ける。
樹木は大木に育つ前に多摩川の氾濫であっという間に流されてしまったのだろう。
今、住宅が立ち並ぶ東京都下の市街地は、かつては果てしなく続く湿地帯だったのだ。
また、多摩湖のある狭山丘陵の形も典型的な「中洲」の形をしている。
地形図の左側上流から流れてきた多摩川は狭山丘陵を流線型状に削り、今の柳瀬川に沿った流れ方をしていたのだ。
まるで火星探査機が撮影した太古の火星氾濫平原と中洲画像を彷彿とさせ、興味深い。
以下はその衛星画像。
時は流れ、立川断層の隆起によって、地殻変動が起き、流れが北東から南東に変わって、現在の位置に落ち着いたとのこと。
実にダイナミックな多摩川の歴史。
これまで多摩川の流域変動は概念的に朧げにしか解らなかったが、この地形図を見て一発で理解できたのは驚きだ。
それも想像していたよりも遥かにスケールが巨大だ。
入間川、柳瀬川周辺にあのような巨大河川痕があることなど、これまでの地図ではまったく気がつかなかった。
人工物や樹木をカットした5メートルメッシュ標高データを活用したKASHIMIR 3Dで関東平野を俯瞰すると地学的好奇心に灯りが点る。
更に細かく見ていくとまだまだ興味深いところが見つかる。
府中市にある標高79mの浅間山は移動運用でも有名な高台ポイント。
昔の多摩川に削られた丘の残った部分と聞いてはいたが、この地形図で一目瞭然。
その北の弧を描く断崖はその頃の多摩川が南へと流れを変えていく過程で武蔵野台地を削り取ってできた、河岸段丘の連なり。
今、ここは国分寺崖線と呼ばれている。
更に時を経て多摩川が南に下って流れ出した時に形成された河岸段丘が立川崖線。
まるでシルクロードの幻の湖、ロプノル湖に流れ込んでいたタリム川の遍歴を探るかのごとき。
このような大河の壮大なる揺らぎがかつて武蔵野で起こっていたのだ。
さて、ふと、地形図の北西に目を向けると立川あたりに浅間山と同じような「独立峰」を見つける。
はて?こんなところにピークなどあったろうか?
よくよく調べてみるとここは昭和記念公園。その中の「こもれびの丘展望台」であった。標高119m。
周りより20m程、高くなっている。
こんなところにも古多摩川に削り取られた「丘」が残っていたのである。
ということは、移動運用場所としても悪くないポイントのはず。
古代から現代まで多摩川が削り取った丘陵の端は、見晴らしがよく、戦国時代の城跡になっていたりで当然電波の飛びもよくなるから、アマチュア無線に限って言えば、移動運用の良いロケーションとなる。
思いつくだけでも以下の移動運用地が上げられる。
●大田区多摩川台公園
この公園は武蔵野台地の南端部にあって、多摩川の削った国分寺崖線の南端に位置するために多摩川との高低差は大きく、多摩川方面への眺望が利くため電波の飛びもよい。また、ここにある古墳群も高台という地形故に造成されたかもしれない。
●川崎市多摩区生田緑地枡形山
比較的最近、多摩川が削った河岸段丘上にある標高84mの高台。
武蔵野台地が一望出来、軍事的要衝として中世の頃より城が造られていた。
人口密集地を見下ろすロケーションなので当然、移動運用場所としてもベスト。
●西多摩郡瑞穂町瑞穂ビューパーク展望台と六道山展望台
古多摩川がまだ武蔵野台地を北寄りに流れていた時、「中洲」として残された狭山丘陵上の高台にある展望台。
●あきる野市大澄山
あきる野市の東端。標高は192m。御岳山から連なる奥多摩の山脈東端。多摩川西岸に位置する草花丘陵から都心部が見下ろせる位置にあり電波の伸びは良いため、よく移動運用局が出ている。
●狭山市稲荷山公園
古多摩川が入間川沿いに流れていた頃に作られた河岸段丘の上にある公園。
北方に眺望が利き、奥武蔵の山々が一望出来る。
他にも稲城市城山公園、日野市新坂西橋、八王子市滝山公園などが上げられる。
超精密地形図を使って知られざる未知の移動運用ポイントを探るのも一興かもしれない。
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